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Dr. 大木沙織

こんにちは、皮膚科医の大木沙織です。

妊娠中の方から「抜け毛が増えた気がするのですが、おなかの赤ちゃんに関係がありますか」と尋ねられることがよくあります。シャンプーのときに指へ絡む毛を数えて、そこから不安が広がっていく方が多いように感じます。

妊娠中は体そのものが大きく変わる時期なので、髪だけを切り離して考えるのが難しいところです。気になったら健診のついででかまいませんので、遠慮なく声をかけてください。

妊娠中はエストロゲンの働きで髪がとどまりやすくなるため、本来は抜け毛がむしろ減る時期にあたります。

それでも抜ける量が増えたと感じるなら、ホルモンそのものより、つわりによる栄養の偏りや睡眠不足が背景にあることがほとんどです。起きていることは時期によって違うので、初期と後期を分けて見ると見当がつきます。

妊娠中は使えない薬があり、そこだけは自己判断を避けてください。多くは一時的な変化なので、頭皮への負担を減らしながら産後まで様子を見るのが基本になります。

執筆・監修医師

大木皮ふ科クリニック 副院長 大木 沙織

名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。

所属:日本内科学会

妊娠中に抜け毛が増える時期

妊娠初期から中期後期を経て産後までの抜け毛の気になりやすさを1本の時間軸で表した図解

気になりやすいのは、つわりが重なる妊娠初期と、体の負担が積み重なる妊娠後期という2つの時期です。

つわりと重なる妊娠5〜8週ごろ

食べられるものが限られる時期と重なるため髪へ回る材料が細りますが、中期に入るころには落ち着いていく方が多く、毛根そのものが失われるわけではありません。

妊娠初期の抜け毛がいつから増えるのかという時期の目安と、妊娠超初期の抜け毛が妊娠のサインなのかどうかは、混同されやすいところです。ホルモンバランスの変化とつわりのどちらが効いているかで、打てる対策も変わってきます。

出産が近づく妊娠後期

後期に入ってもエストロゲンは高いままなので、髪はとどまりやすい状態が続きます。それでも抜け毛が気になるときは、鉄やたんぱく質が赤ちゃんへ優先され、睡眠が細切れになっていることが重なっています。

妊娠後期の抜け毛は、髪そのものの問題というより体の負担の表れとして見るのが実態に近い姿です。

なぜ妊娠中に髪が抜けるのか

妊娠中の抜け毛は、ホルモンが原因というより、栄養と睡眠が削られた結果として現れます。

エストロゲンは髪を守る側にはたらく

妊娠が成立するとエストロゲンが増えて髪が伸びる期間は長く保たれ、ふだんなら抜けていた毛も頭にとどまります。そのため妊娠中は、むしろ髪が減りにくい時期にあたります。

つわりで削られる材料

においを受けつけず食べられるものが偏ると、たんぱく質と鉄が真っ先に足りなくなります。母体に入ってきた栄養は赤ちゃんへ優先して回るため、髪はいちばん後回しになる場所です。

  • たんぱく質 … 髪そのものの材料で、不足すると細い毛のまま伸びが止まりやすい
  • 鉄 … 妊娠中に不足しやすく、毛根へ酸素を運ぶ力が落ちる
  • 亜鉛・葉酸 … 毛をつくる細胞の入れ替わりを支える

眠りの浅さと体の変化

おなかが大きくなるにつれて寝返りが打ちにくくなり、夜中に何度も目が覚めるようになっていきます。眠りが細切れになると自律神経が乱れ、頭皮へ届く血流も落ちます。

妊娠中に避けたいケアと、続けてよいケア

妊娠中に避ける処方薬と続けてよい洗い方や食事や睡眠のケアを左右2列に仕分けた図解

妊娠中に線引きが要るのは薬だけで、それ以外のケアは無理のない範囲で続けて構いません。

薄毛の薬は妊娠中に使わない

フィナステリドやデュタステリドは、男の子の胎児の発育に関わることが知られています。ミノキシジルも塗り薬から一部が体へ入るため、妊娠中と授乳中はどちらも避ける対象です。

妊娠中の薄毛治療で使うAGA薬は胎児への影響が知られており、安全とはいえません。一方で妊婦でも使える育毛剤はあり、成分の選び方さえ押さえれば、妊娠中の薄毛対策そのものを諦める必要はありません。

白髪染めは時期と刺激で判断する

通常の使い方ではっきりした悪影響を示した研究はほとんど無く、頭皮からの吸収もごくわずかとされています。それでも器官がつくられる初期は見送り、体調の落ち着く中期以降にする方が安心です。

妊娠中の白髪染めは、かぶれやすさが変わる点も含めて美容師へ伝えておいてください。

妊娠中の抜け毛を減らす毎日の頭皮ケア

妊娠中の頭皮ケアとして指の腹で洗う姿とタオルで押さえて拭く姿と休んでいる姿を並べた図解

できるのは、髪をつくる材料を切らさないことと、頭皮への刺激を減らすことの2つです。

洗い方を少し変えるだけでも、頭皮にかかる負担は減らせます。

  • 洗う … 爪を立てず指の腹を使い、刺激の少ないアミノ酸系をぬるめの湯で十分に流す
  • 乾かす … タオルは押さえるように当て、こすらない
  • 休む … においがつらい時期は無理をせず、洗う回数を減らしてよい

髪を強く引っ張る結び方を続けないことも、妊婦の頭皮ケアとして効いてきます。おなかが大きくなると腕を上げる姿勢自体がつらくなるので、束ねる位置をゆるめるだけでも負担は変わります。

妊娠中の抜け毛と産後の抜け毛の違い

まとまって抜ける時期がやってくるのは妊娠中ではなく、出産から2〜3か月ほどたったころからです。

妊娠中にとどまっていた毛が、エストロゲンの低下でいっせいに抜ける時期がきます。まとめて抜けるので驚きますが、これは減った毛が戻ってくる過程の一部です。ピークは3〜5か月ごろで、多くはそのまま回復へ向かいます。

産後ケアの見通しを妊娠中のうちに知っておくと、そのときに慌てずに済みます。1年以上たっても戻らない場合だけは、別の原因が重なっていないか確かめる必要があります。

妊娠中の抜け毛で受診する目安

髪全体からまばらに抜ける状態と一か所に偏って抜ける状態を見分けて相談へ進む流れを表した図解

抜け方が髪全体ではなく一部分に偏っているときは、妊娠とは別の原因を疑って早めに相談してください。

コインのように丸く抜ける、地肌がはっきり透けてきた、といった変化は妊娠による一時的な抜け毛の形とは違います。だるさや動悸、むくみが重なるときは、内科や産婦人科でも診てもらってください。

鉄不足や甲状腺のはたらきは妊娠中でも血液検査で調べられるので、抜け毛がひどいときは自己判断でサプリメントを増やす前に相談するほうが確実です。

よくある質問

妊娠中の抜け毛は赤ちゃんの性別と関係がありますか?

性別で抜け毛の量が変わるという医学的な裏づけはありません。妊娠中はホルモンの変化がどなたにも起きるため、性別とは別の要因で抜け方に差が出ます。言い伝えとして語られることが多い話題なので、気にしすぎないでください。

妊娠中の抜け毛はいつごろ落ち着きますか?

つわりと重なった初期の抜け毛は、食事が戻る中期には落ち着いていく方が多く見られます。ただし本格的に抜ける時期は産後2〜3か月からで、そちらは別の変化です。妊娠中の抜け毛と産後の抜け毛は、分けて考えるほうが見通しが立ちます。

妊娠中に育毛剤を使っても大丈夫ですか?

ミノキシジルのような医薬品の発毛成分は避けてください。医薬部外品や化粧品にあたる低刺激のものであれば選択肢に入りますが、使い始める前にかかりつけの産婦人科医へ一度確認しておくと安心です。成分表示が明確なものを選んでください。

妊娠中の抜け毛にサプリメントで対応してよいですか?

鉄や葉酸は妊娠中に不足しやすい一方で、自己判断で量を増やすのは勧められません。血液検査で足りているかどうかを確かめられるので、まず数値を見てから決めるほうが無駄がありません。食事から摂る分を土台に考えてください。

妊娠中の抜け毛はシャンプーの回数を減らすと止まりますか?

洗う回数と抜ける量は直接つながっていません。洗うときに抜けた毛が目に見えるだけで、洗わなければ頭皮に皮脂がたまり、かゆみのもとになります。においがつらい時期に間隔を空けるのは構いませんが、対策としては別の話です。

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