産後ケア– category –

年代・悩み別産後ケア
Dr. 大木沙織

こんにちは、皮膚科医の大木沙織です。

産後、シャンプーのたびにごっそり抜ける髪を見て、「このまま元に戻らないのでは」と不安になっていませんか。排水口にたまる髪の量に驚いて、つい検索してしまう気持ちはとてもよくわかります。

産後の抜け毛は、妊娠中に高まっていた女性ホルモンが出産を境に急激に減少することで起こる、一時的な生理現象です。出産を経験した女性の約9割が経験するといわれており、決してあなただけに起きていることではありません。

多くの場合、産後半年から1年ほどで自然に落ち着いていきます。ただし、授乳や睡眠不足、栄養の偏りが重なると回復が遅れることもあるため、正しい知識を持っておくことが大切です。

産後の抜け毛は、出産後2~3か月から始まり半年~1年で落ち着くのが一般的です。出産を経験した女性の約9割が抜け毛を実感するとされており、「自分だけではない」と知るだけでも気持ちが軽くなるかもしれません。

原因の中心は、妊娠中に高まっていた女性ホルモン(エストロゲン)が出産を境に急落することで起きるヘアサイクルの乱れです。授乳期間が長いほど抜け毛が長引く傾向も報告されていますが、多くの場合は時間の経過とともに自然に回復へ向かいます。

この記事では、産後の抜け毛がいつまで続くのか、授乳中でも安心して使える育毛剤の選び方、栄養面からのサポート、さらに「もしかしてFAGA?」と感じたときの受診の目安まで、産後ママが知っておきたい情報を医学的な根拠にもとづいてお伝えします。

執筆・監修医師

大木皮ふ科クリニック 副院長 大木 沙織

名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。

所属:日本内科学会

産後の抜け毛が始まる時期と自然に治まるまでの期間

産後の抜け毛は多くの場合、出産後2~3か月で始まり、半年から1年程度で自然に落ち着きます。「いつまで続くのか」という不安を抱えるママは多いですが、ヘアサイクルの仕組みを知ることで見通しが立てやすくなるでしょう。

時期髪の状態
妊娠中エストロゲン増加で抜けにくい
産後2~3か月抜け毛が目立ち始める
産後4~5か月抜け毛のピーク
産後6か月~1年徐々に回復へ向かう

分娩後脱毛症はなぜ起こるのか

妊娠中は胎盤から分泌されるエストロゲンの影響で、通常なら休止期(テロゲン期)に入るはずの髪が成長期(アナゲン期)にとどまり続けます。そのため妊娠後期は髪のボリュームが増えたと感じる方も少なくありません。

出産後エストロゲンが急激に減少すると、成長期に留まっていた毛髪が一斉に休止期へ移行し、まとまって抜け落ちます。これが分娩後脱毛症(産後テロゲン・エフルビウム)と呼ばれる状態です。医学的には一時的な生理現象であり、毛包自体が傷ついているわけではありません。

産後脱毛が起こる仕組みをもっと詳しく知りたい方へ
産後の抜け毛とホルモン変化の関係を解説

抜け毛のピークと回復までの期間

研究データによると、産後の抜け毛は平均して産後2.9か月で始まり、5.1か月でピークを迎え、8.1か月頃に終息に向かいます。ただし個人差が大きく、授乳の有無や栄養状態によっても変動します。

授乳中の女性はエストロゲンの回復が緩やかになるため、非授乳の方と比べて抜け毛の時期がずれることがあります。焦らず見守ることが大切ですが、1年を過ぎても改善しない場合は別の脱毛症の可能性も考えられるため、早めに医療機関へ相談しましょう。

回復までのスケジュールと実践ケアをまとめました
産後脱毛の回復期間と対策ガイド

産後の抜け毛を悪化させるホルモンと生活習慣

ホルモンの変動だけが原因ではありません。睡眠不足や栄養の偏りなど、産後特有の生活環境が抜け毛を長引かせるケースもあります。

エストロゲン急減と授乳の関係

出産によってエストロゲンが急落するのは誰にでも起こる変化ですが、授乳を続けている間はプロラクチン(乳汁分泌ホルモン)の影響で排卵が抑制され、エストロゲンの回復が遅れがちになります。6か月以上の授乳を行った女性は、短期間で卒乳した女性と比べて抜け毛を経験しやすいという報告もあります。

ただし授乳そのものが抜け毛の直接的な「原因」とは言い切れません。赤ちゃんへの栄養供給で母体のたんぱく質や鉄分が消耗しやすいことも一因と考えられています。

産後抜け毛の特徴とホルモンバランスの詳細

睡眠不足・栄養偏りが与えるダメージ

夜間授乳による慢性的な睡眠不足は、成長ホルモンの分泌を妨げ、毛母細胞の活動を低下させます。加えて、育児で食事が不規則になり、鉄分・亜鉛・たんぱく質といった髪の成長に欠かせない栄養素が不足しがちです。

ストレスも見逃せない要因でしょう。産後の抜け毛と不安感との間に独立した関連があることが研究で示されています。髪の悩みが精神的負担を増し、それがさらに抜け毛を悪化させるという悪循環に陥らないよう、周囲のサポートを積極的に受けることが望ましいといえます。

抜け毛のピーク期に実践したいケアの詳細をチェック
産後抜け毛のピーク時期とケア方法

授乳中でも使える女性用育毛剤の選び方

授乳中の育毛剤選びで一番気になるのは、赤ちゃんへの影響でしょう。結論として、外用のミノキシジルは授乳中の安全性が確立されていないため慎重に判断する必要がありますが、天然由来成分を中心とした育毛剤であれば比較的安心して使えるものもあります。

成分で見る安全性の基準

授乳中に避けたほうがよい成分と、使用を検討できる成分を整理しました。

分類成分例授乳中の使用
医薬品ミノキシジル外用医師に相談
医薬部外品センブリエキス等比較的安心
天然由来ローズマリー油等穏やかに使用可

内服薬(スピロノラクトンやミノキシジル内服など)は母乳への移行リスクがあるため、授乳中は処方されないのが一般的です。育毛剤を選ぶ際は、パラベンフリー・無香料・アルコールフリーなど刺激の少ない処方を優先してください。

授乳期でも取り入れられるヘアケアの情報を詳しく見る
授乳中の育毛ケア安心ガイド

頭皮ケアとの併用で効果を高めるコツ

育毛剤の効果を引き出すには、頭皮環境を整えることが前提になります。皮脂や汚れが毛穴を塞いだままでは、有効成分が届きにくいためです。シャンプー後にタオルドライした清潔な頭皮に育毛剤を塗布し、指の腹でやさしくマッサージすると血行が促進されて浸透しやすくなります。

週に2~3回の洗髪頻度を目安に、硫酸系界面活性剤を含まないアミノ酸系シャンプーを選ぶとよいでしょう。過度な洗髪は必要な皮脂まで奪い、かえって頭皮を乾燥させてしまいます。

産後の栄養補給と食事で髪を育てる実践法

髪の約80~90%はケラチンというたんぱく質でできています。食事の見直しは、体の内側から髪の回復を後押しする確かな方法です。

鉄・亜鉛・たんぱく質が髪に届くまで

産後は授乳による消耗に加え、出産時の出血で体内の鉄が不足しやすい時期です。鉄分が不足すると酸素を運ぶヘモグロビンが減り、毛母細胞への栄養供給が滞ります。赤身の肉、レバー、ほうれん草、小松菜などを意識して摂ると同時に、ビタミンCを含む食材と一緒に食べると鉄の吸収率が高まります。

亜鉛は毛髪の合成をサポートするミネラルで、牡蠣、牛肉、卵に多く含まれます。たんぱく質は肉・魚・大豆製品をバランスよく取り入れましょう。1つの食材に偏らず、多様な食品から栄養を得ることが回復への近道です。

産後ママにおすすめの栄養素と食材

  • 鉄分:レバー、赤身肉、ほうれん草、小松菜
  • 亜鉛:牡蠣、牛肉、卵黄、ナッツ類
  • たんぱく質:鶏むね肉、鮭、豆腐、納豆
  • ビタミンB群:玄米、豚肉、バナナ

栄養が毛髪に反映されるまでには3~6か月ほどかかるため、目に見える変化がすぐに現れなくても継続することが大切です。

サプリメント活用の注意点

食事だけで十分な栄養を補うのが難しい場合、サプリメントの利用を検討するのも一つの手です。ビオチン(ビタミンB7)や鉄、亜鉛、ビタミンDが含まれた製品は髪の成長をサポートする可能性があります。

ただし、授乳中のサプリメント摂取は必ずかかりつけ医に相談してからにしてください。鉄や亜鉛は過剰摂取による副作用があり、自己判断で大量に摂ることはかえってリスクを高めます。まずは血液検査で不足している栄養素を確認し、医師の指導のもとで適切な量を補うのが安全です。

産後の育毛サプリメント選びのポイント

産後抜け毛がFAGAに移行するサインと受診の判断

産後1年を過ぎても抜け毛が減らない場合は、FAGA(女性男性型脱毛症)など進行性の脱毛症が隠れている可能性があります。「時間が経てば治る」と決めつけず、変化のサインを見逃さないようにしましょう。

1年経っても戻らないときに疑うべきこと

分娩後脱毛症は一時的に大量の髪が抜ける特徴がありますが、FAGAは髪が少しずつ細くなりながら頭頂部や分け目が透けてくるのが特徴です。両者が重なって発症するケースも報告されており、産後の抜け毛に隠れてFAGAの進行に気づけないことがあります。

項目分娩後脱毛症FAGA
経過一時的に大量に抜ける徐々に進行する
回復半年~1年で自然回復治療しないと進行
特徴全体的に薄くなる分け目・頭頂部が目立つ

早めの受診を検討したい兆候

  • 分け目が以前より明らかに広がってきた
  • 髪が細く弱々しくなり、セットが決まらない
  • 地肌が透けて見えるようになった
  • 抜け毛と同時に強いかゆみやフケがある

こうした兆候がある方は、産後の一過性の脱毛以外の原因を疑い、早めの受診を検討してください。

産後脱毛とFAGA併発のリスクについて解説を読む
産後抜け毛とFAGA併発の見分け方

皮膚科・婦人科どちらを選ぶか

産後の抜け毛で受診を考えたとき、皮膚科と婦人科のどちらへ行くか迷う方は少なくありません。頭皮の炎症やかゆみ、フケを伴う場合はまず皮膚科が適しています。ホルモンバランスの乱れや甲状腺機能の異常が疑われるときは、婦人科や内科での血液検査が有用です。

どちらか迷ったら、まずはかかりつけの産婦人科に相談してみてください。必要に応じて適切な診療科への紹介を受けられます。

産後の頭皮を守るシャンプーと日常ケアの工夫

日々のシャンプーや乾かし方を少し変えるだけで、産後のデリケートな頭皮への負担をぐっと減らせます。高価な製品を買い揃える必要はありません。

洗い方・乾かし方で抜け毛は減らせる

シャンプーはアミノ酸系やベタイン系など、低刺激の製品を選びましょう。ぬるま湯(38℃前後)で予洗いしてからシャンプーを手のひらで泡立て、指の腹でやさしく頭皮を洗います。爪を立てたりゴシゴシこすったりすると毛根にダメージを与えかねません。

ドライヤーは頭皮から20cmほど離し、温風と冷風を交互に使うと熱ダメージを抑えられます。タオルドライの際もゴシゴシ拭かず、押さえるように水分を取りましょう。きつく結ぶヘアスタイルは牽引性脱毛の原因にもなるため、産後はゆるめのまとめ髪が安心です。

頭皮にやさしいシャンプー選びのコツを解説
産後の抜け毛対策シャンプーと頭皮ケア

ケア項目おすすめの方法
シャンプーアミノ酸系、週2~3回が目安
ドライヤー20cm離して温冷交互に
ブラッシング目の粗いコームでやさしく

産後の原因別ケア方法をまとめた記事をチェック
産後抜け毛の原因とケア方法の総まとめ

産後脱毛からの回復を早める日常習慣のヒント

よくある質問

産後の抜け毛はいつからいつまで続きますか?

産後の抜け毛は一般的に出産後2~3か月から始まり、4~5か月頃にピークを迎えます。多くの場合、産後6か月~1年で自然に落ち着いていきます。

ただし授乳の期間や栄養状態、ストレスの程度によって個人差が大きく、回復までの期間が前後することも珍しくありません。1年を過ぎても明らかに改善しない場合は、FAGAなど他の脱毛症の可能性もあるため、皮膚科や婦人科への相談を検討しましょう。

授乳中に女性用育毛剤を使っても赤ちゃんに影響はありませんか?

天然由来成分やセンブリエキスなどを主成分とする医薬部外品の育毛剤であれば、外用での使用は比較的リスクが低いとされています。一方、ミノキシジル外用薬は授乳中の安全性が確立されていないため、使用を希望する際は必ず医師にご相談ください。

内服タイプの育毛薬は母乳への移行リスクがあるため、授乳中は処方されないケースがほとんどです。成分表示をよく確認し、不安がある場合はかかりつけの産婦人科や皮膚科に相談してから使い始めると安心でしょう。

産後の抜け毛を食事で改善するにはどんな栄養素が必要ですか?

髪の成長には鉄分、亜鉛、たんぱく質、ビタミンB群、ビタミンDが特に大切です。産後は出産時の出血や授乳で体内の鉄と亜鉛が消耗しやすいため、意識的な補給を心がけてください。

赤身肉やレバーで鉄を、牡蠣や卵で亜鉛を、鶏肉や大豆製品でたんぱく質を摂るのがおすすめです。ビタミンCを含む野菜や果物と一緒に食べると鉄の吸収率が高まります。栄養が髪に反映されるまで3~6か月かかるため、焦らず続けることが回復への近道です。

産後の抜け毛とFAGA(女性男性型脱毛症)はどう見分ければよいですか?

産後の分娩後脱毛症は一時的に大量の髪が抜ける特徴があり、時間の経過とともに自然に回復するのが一般的です。一方、FAGAは髪が徐々に細くなり、頭頂部や分け目の地肌が目立つように進行していきます。

産後1年を過ぎても抜け毛が治まらない、分け目が以前より広がっている、髪にハリやコシがなくなってきた、といった変化があれば、FAGAの可能性を視野に入れて皮膚科を受診されることをおすすめします。早い段階で対応するほど治療の選択肢が広がります。

産後の抜け毛が多すぎて怖いのですが、シャンプーの回数を減らしたほうがよいですか?

抜け毛が多いときほどシャンプーを控えたくなる気持ちはよくわかりますが、洗髪を極端に減らすとかえって頭皮環境が悪化する恐れがあります。皮脂や汚れが毛穴に詰まると新しい髪の成長を妨げてしまうためです。

週2~3回の洗髪を目安に、低刺激のアミノ酸系シャンプーでやさしく洗うことをおすすめします。洗髪時に抜ける髪は、もともと休止期に入って抜ける準備ができていた髪です。シャンプーが原因で抜けているわけではないので、頭皮を清潔に保つことを優先してください。

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