病気と脱毛– category –

年代・悩み別病気と脱毛
Dr. 大木沙織

こんにちは、皮膚科医の大木沙織です。

抜け毛の相談では「たぶん年齢のせいですよね」と前置きされる方がよくいらっしゃいます。ところがお話をうかがっていくと、冷えがひどくなった、階段で息が切れるようになった、といった変化が後から出てきます。

髪だけを見ていると、こうした体の変化は別々のこととして流れてしまいます。抜け毛と同じ時期に始まった不調があれば、小さなことでも合わせて教えてください。そこから診察の道すじが変わります。

病気が背景にある抜け毛は、髪だけでは終わりません。冷えやだるさ、動悸といった体の不調をいっしょに連れてくるところが、加齢による薄毛との大きな違いです。

抜け方にも特徴があり、分け目や生え際が進むのではなく、頭全体がまんべんなく薄くなります。原因として多いのは甲状腺のはたらきの乱れと鉄の不足で、そこに自己免疫が関わることもあります。

どれも血液検査で確かめられ、大もとが整えば髪も戻っていきます。自己判断で栄養を足す前に、まず調べる順番にしてください。

執筆・監修医師

大木皮ふ科クリニック 副院長 大木 沙織

名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。

所属:日本内科学会

病気が原因の抜け毛は何が違うのか

見分けの手がかりは髪そのものよりも、抜け毛と同じ時期に始まった体のほかの変化のほうにあります。

頭全体がまんべんなく薄くなる

女性に多い加齢の薄毛は分け目から広がりますが、病気に伴う抜け毛は頭全体のボリュームがゆるやかに落ちていきます。円く一か所だけ抜ける形とも違い、地肌が全体に透けて見えるようになります。

見逃されやすい体のサイン

サインは髪から離れた場所に出てくるので、抜け毛と結びつけて考えにくいのが厄介なところです。

  • 眉毛の外側 … 3分の1あたりが薄くなるのは、甲状腺のはたらきが落ちたときに出やすい
  • 体温と体重 … 冷えやむくみ、あるいは食べているのに減っていく変化
  • 動悸と息切れ … 階段や坂道で以前より苦しくなった

甲状腺異常のサインは薄毛ほど深刻に受け止められず、そのまま見過ごされがちです。甲状腺の病気で抜け毛が増える関係を知っておくと、体の変化と髪を結びつけて考えられます。

甲状腺の病気と抜け毛のつながり

甲状腺のはたらきが落ちるときと強すぎるときで髪質の変わり方が反対を向くことを示した図解

甲状腺ホルモンは毛根が直接受け取っている調整役なので、多すぎても少なすぎても抜け毛が増えます。

はたらきが落ちるとき

毛根の細胞は甲状腺ホルモンを直接受け取る受容体を持っており、足りないと成長期が短くなって休止期へ移る毛が増えます。髪は乾いてパサつき、太さのわりにうねりやすくなるのが特徴です。

冷えやむくみ、便秘、体重の増加が同じ時期にそろっているなら、髪よりそちらから確かめるほうが早道です。

はたらきが強すぎるとき

逆にホルモンが過剰なときは代謝が速く回るため、髪は細く柔らかくなってコシを失っていきます。動悸や手のふるえ、汗の増加、食べているのに体重が減るという変化を伴うのが特徴です。

甲状腺機能低下症による抜け毛と甲状腺機能亢進症による抜け毛では、原因は同じホルモン異常でも髪質の変わり方が反対を向きます。どちらの薄毛なのかで、改善に向けたケア方法や対策も変わってきます。

貧血・鉄不足と抜け毛のつながり

食事からとった鉄が体の貯えを経て血で運ばれ毛根へ届くまでの道すじと貯えが先に減ることを示した図解

毛をつくる細胞は分裂が速いぶん、酸素を運ぶ鉄が足りなくなると真っ先に影響が出る場所です。

貧血と言われる手前でも起きる

鉄はヘモグロビンとして酸素を運ぶだけでなく、髪のもとになるたんぱく質をつくる酵素も助ける材料です。月経や出産で失われる量が多い女性は、健康診断で貧血と言われない段階でも貯えが減っていることがあります。

鉄欠乏性貧血で抜け毛が増える原因も、貧血が白髪に関わるという話も、どちらも同じ貯えの少なさから説明がつきます。鉄分不足が髪に与える影響と対策は、女性に多い薄毛として一続きで見ると整理できます。

補うときの順番

肉や魚のヘム鉄と野菜の非ヘム鉄を組み合わせ、ビタミンCといっしょに摂ると吸収が上がります。コーヒーや緑茶は食事の前後30分を空けてください。貧血による抜け毛を改善する鉄分の対策は、数か月単位で続けて初めて髪に表れます。

自己免疫が背景にある抜け毛

自分の免疫が毛根や甲状腺を攻撃してしまう型があり、この2つは重なりやすいことが知られています。

円く抜ける形は別の道すじ

コインのように丸く抜けるものは、免疫が自分の毛根を攻撃してしまうことで起こります。全体がまんべんなく薄くなる甲状腺や鉄不足の抜け方とは、見た目からしてまるで別のものです。

甲状腺の病気と重なりやすい

橋本病やバセドウ病も免疫のはたらきが関わる病気で、円形に抜けるタイプの脱毛と同じ人に起きることがあります。片方が見つかったときにもう片方も調べるのは、この重なりがあるためです。

病気の抜け毛と紛らわしい変化

更年期の症状と甲状腺のはたらきの乱れによる症状が重なる範囲を2つの円で表した図解

体の不調を伴う抜け毛は、更年期や産後に起きる変化とよく似た顔をして現れるので紛らわしくなります。

だるさ、冷え、気分の落ち込み、髪のパサつき。更年期の症状として説明がついてしまう並びは、甲状腺のはたらきが落ちたときの並びとほとんど重なります。年齢で片づけると、調べれば分かるものを見送ることになります。

更年期にあたる年代の方こそ、年齢のせいだと決めてしまう前に、一度は血液検査を挟んでおくと安心です。

甲状腺と貧血は血液検査で分かる

血液検査でヘモグロビンとフェリチンと甲状腺ホルモンを見ることとフェリチンが低めに出る様子を結果票で表した図解

甲状腺のはたらきも鉄の貯えも採血ひとつで確かめられるので、髪を見ているだけでは区別がつきません。

鉄については、ヘモグロビンだけでは足りません。体に貯えてある鉄の量を示すフェリチンを合わせて見ると、貧血と言われる手前の段階で気づけます。

  • ヘモグロビン … 貧血があるかどうかを判定する、いちばん基本の数値
  • フェリチン … 体に貯えてある鉄の量で、貧血の手前で気づける貯金の残高にあたる
  • 甲状腺ホルモン … 多すぎても少なすぎても抜け毛につながるので合わせて見る

2〜3か月続く抜け毛が受診の目安です。薄毛の原因となる鉄分不足の検査は、補い始めてからも数か月ごとに追っていくと変化が見えてきます。

病気の抜け毛は治療で戻るのか

大もとが整えば戻る種類の抜け毛ですが、髪は月に1センチほどしか伸びないので時間がかかります。

数値が改善しても、はじめの1か月はまだ抜け毛が続きがちです。2〜3か月で抜ける量が落ち着き、3〜6か月かけて産毛から生え替わっていく、という順序をたどります。

甲状腺の病気による抜け毛が治るまでの道のりは、この時間の見通しを持っているかどうかで受け止め方が変わります。戻りを支えるのは、栄養と睡眠を整えておく日々のほうです。

よくある質問

病気による抜け毛かどうかは自分で分かりますか?

抜け方だけで決めるのは難しく、髪以外の変化と合わせて見る必要があります。頭全体がまんべんなく薄くなり、冷えや動悸などが同じ時期に始まっていれば疑う手がかりです。確かめるには血液検査が要ります。

甲状腺の抜け毛は何科で相談すればよいですか?

髪の状態を見てもらうなら皮膚科、甲状腺そのものの治療は内科や甲状腺の専門外来になります。どちらから入っても採血で見当がつくので、相談しやすいほうを選んでください。結果に応じて紹介してもらえます。

貧血の抜け毛は鉄のサプリだけで戻りますか?

足りない量と、なぜ失われているかによって変わります。月経量が多い場合など、もとの原因が残っていれば補うだけでは追いつきません。自己判断で量を増やすと過剰になることもあるため、数値を見てから決めてください。

病気の抜け毛に育毛剤を使う意味はありますか?

大もとを治すのは病気側の治療で、育毛剤がその代わりになるわけではありません。頭皮の環境を整える役目としては併せて使えますが、順番としては原因を確かめるほうが先です。使う前に医師へ伝えておいてください。

検査で異常なしと言われた抜け毛はどうすればよいですか?

基準の範囲内でも、フェリチンが低めなら髪に響いていることがあります。数値そのものを見せてもらい、範囲のどのあたりかを確かめてください。病気が見つからない場合は、女性の薄毛として別の道すじで考えます。

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